札幌家庭裁判所 昭和55年(家)2746号 審判 1980年12月17日
〔参考〕昭和四六年二月一七日民甲五六七号法務省民事局長回答(訓令通牒録<7>八八七四頁)
申立人 石田夏子 外二名
主文
申立人らが、その母である「千田芳」の氏を称することを許可する。
理由
一 申立人らから、いずれも主文同旨の審判の申立があつたので、当裁判所は、本件記録のほか、釧路家庭裁判所帯広支部昭和五四年(家イ)第一七・一八・一九号親子関係不存在確認事件記録及び当裁判所昭和五五年(家)第一三七・一三八号戸籍訂正許可申立事件記録に、申立人ら及び参考人(申立人らの母)千田芳に対する各審問の結果を総合して必要な事実の調査をしたところ、次の事実を認めることができる。
(1) 申立人らは、いずれも、西歴一九四九年(昭和二四年)五月一〇日ロシヤソヴイエツト聯邦社会主義共和国サハリン州タマリヌスキー地方登録事務所に対する婚姻届出(いわゆる「樺太方式」による婚姻)をした朝鮮国籍の父金水命と日本国籍の母石田芳との間に生まれたものであつて、その出生により、いずれも日本の国籍を有しないものとされ、本邦に引き揚げ後の昭和三三年二月二日付をもつて、それぞれ上記父方氏を称する外国人登録の手続をなして現在に至つているものであること。
(2) ところで、申立人らの母は、上記金水命との婚姻届出前の昭和一八年六月一四日樺太において、既に日本国籍の石田和義と夫の氏を称する婚姻をなし、「本籍北海道石狩郡○○町大字○○村○×線×番地、戸主千田一雄」の戸籍から「本籍樺太泊居郡○○村大字○○字○×線××番地」の右石田和義の戸籍に入籍していたものであつて、その後間もなく、右夫が召集を受けて現地入隊したため夫婦が離別するところとなり、同年末以降相互に音信が途絶えたまま終戦を迎えたことから、未だ右石田和義との婚姻関係を解消するに至らないまま、重ねて上記金水命との婚姻の届出をしたものであり、一方、申立人らの父金水命もまた、西歴一九三四年(昭和九年)三月二三日その本国において朴美玲と婚姻し、本国法に定める所定の届出手続を了していたもので、その婚姻継続中に重ねて上記石田芳との婚姻の届出をしたものであること。
(3) しかして、申立人らは、上記(2)記載の事情により、いずれも形式上はその母と上記石田和義との間の出生子たる推定を受ける立場にあつたものであるが、昭和五四年九月二八日確定の親子関係不存在確認審判(釧路家庭裁判所帯広支部昭和五四年(家イ)第一七・一八・一九号。申立人田中夏子こと金玉玲、田辺美佐子こと金玉南、同井口幸子こと金幸子。相手方石田和義。)により、申立人らと右石田和義との間の親子関係の不存在が確認されていること。
(4) また、申立人らの母の戸籍については、昭和三三年五月九日付確定の就籍許可審判により、同月一七日「本籍北海道函館市○町×丁目×××番地」に就籍戸籍が編製された後、昭和五五年七月一九日確定の戸籍訂正許可審判(当裁判所昭和五五年(家)第一三七・一三八号。申立人石田芳。)により、「本籍北海道河西郡○○町○×条×丁目×番地、筆頭者石田和義」の戸籍に妻として入籍後、同年九月九日右の戸籍上の夫石田和義と協議離婚し、その婚姻前の氏「千田」に復氏したもので、これにより「本籍札幌市西区○○○○××番地」に筆頭者を「千田芳」とする新戸籍が編製されていること。
二 上記認定の事実によると、申立人らは、いずれもその父母の婚姻中の出生子として嫡出性が推定され、父の国籍に従つて外国人登録法による身分登録がなされているけれども、申立人らの父母の婚姻は、その夫及び妻の双方につきそれぞれ重婚に該ることが明らかで、その婚姻当時の夫の本国法の適用において、これが朝鮮民事令下の朝鮮の慣習上当然無効と解するのが相当であるから、申立人らは、上記父母との関係において非嫡の子たるにとどまるものであり、一方、その母との有効な婚姻関係に基づき、戸籍上申立人らの父としての形式的推定を受ける母の先夫石田和義との関係においては、その父子関係が存在しないことにつき既に確認がなされているところであるが、申立人らは、いずれにしろ日本国籍の母の非嫡の子としての法的身分を有するもので、生来的に日本の国籍を取得したものといわなければならない(なお、仮りに、父金水命からの各嫡出子出生届に認知効を認むべきものとしても、これにより申立人らの国籍に何らの変動をも及ぼすものでないことにつき「昭和二五年一二月六日法務府民事甲第三〇六九号民事局長通達」参照。)。
してみると、申立人らについては、その外国人としての身分登録を改め、母からの新たな出生届出によりそれぞれ母の戸籍に入籍させる必要があるところ、申立人らは、その各出生当時の母の氏「石田」を称すべきものとされていて、既に離婚復氏して別戸籍が編製されている母とは氏を異にしているため、右母において、申立人らにつき上記父子関係不存在確認の審判書を添えて非嫡出子出生の届出をしても、申立人らが当然には母の戸籍に入籍することとはならない取扱いであるから、このような場合、申立人ら子の氏の変更を認め、「母の氏を称する入籍届出」をも併わせ行わせ、これにより申立人らを直接母の戸籍に入籍させる取扱いを認めるのが相当である。
よつて、本件申立はその理由があるものと認め、主文のとおり審判する。
(家事審判官 和田丈夫)